ゆうたろうの正体

濃紺の夜空に、青白い光が瞬いて消えた。無人島に引っ越してきた、ただ一人の人間は霊能力を持っている。視えるだけでなく、霊に干渉できるようだ。今宵もまた、この島に蔓延る亡霊を浄化していた。
「あはは、いつもすみませんね。名前の知らない島民さん」
「島の平和を守ることも島民代表の仕事ですから」
「僕は、どうしてここにいるんだろう。以前のことを覚えていないのにこの島にとどまり続けているのが不思議でたまらない」
「・・・・・・ゆうたろうさんは、あなた自身の真実を知りたいのですか?」
ゆうたろうと呼ばれた亡霊は、えっ、と島民代表の方を振り向いた。自分と違って生きている人間であるはずなのに、無感情な声質と、表情の窺えない様子が、たまらなく不気味に見えた。だが好奇心には勝てずに、知りたいですと静かな夜の空気に消え失せそうな声で答えた。
島民代表はゆうたろうの方を向かずに、淡々と述べた。
「過去を見ることができましたが、あなたはこの無人島の中に蔓延る悪意の集合体。亡霊ではないようです。実はこの島、無人島になる前は豪華なリゾートアイランドだったそうです」

島民代表曰く、かつては事業の拡大としてとある不動産会社がこの島を買い取ってリゾートアイランドを造り上げた。不動産会社の社長は、たぬきちの先代にあたるようだ。リゾート地を造るために、大量の資金と欲望が島に集まった。
幾多の木々は伐採され、ホテルや映画館、ショッピングモールやレストランなどが建てられていった。資金が蠢くリゾートの島には、富裕層が数多く訪れていて人気を博していた。さらに娯楽を盛り上げようと、キャバクラやホスト、さらには裏カジノまで設けていた。
一見華やかなリゾート事業の裏では、その裏では不満に満ちている者もいた。建設するに至って、常に人手が不足しており低賃金労働者が増加していた。人員は何人雇っても足りず、中には過労死してしまう者もいた。さらには、富裕層を除く住民は生活資金が足りず、生活する陰で小さなスラム街でその日暮らしをするものも少なくない。リゾート島で働く者達は、富豪達や事業のトップのコマでしかなく、低賃金長時間労働は当然、毎日が残業の日々であった。
建設関係だけではなく、飲食店や美容関連の事業者、娯楽施設の人間も人手不足や退職者も続出していた。やがて、華やかだったそのリゾート島はみるみる廃れていった。接客をする人々の目には隈が浮かんでいて青白く、今にも死んでしまいそうな顔をしていた。
「なんだねその顔は。せっかくの食事が君のゾンビのような顔でまずくなる。全く、建設予定のスパランドも全く進んでいないとはどういうことだ!」
丸々と肉付いた顔をした中年の男が、茹でダコのように真っ赤な顔をして唾を飛ばしてウェイターに怒鳴り散らす。ウェイターはただ平謝りをしていた。中年の男はあれやこれやと不平不満や愚痴を吐いてからふん、と鼻を鳴らして金をテーブルに叩きつけてずかずかとレストランを後にした。空洞になっているウェイター達の視線を背に受けて。
程なくして、リゾートアイランドにはある噂が流れた。流行り病で人々が続々と死んでいったという噂。自殺者が集う島という噂。島民の八割以上が殺人鬼の島という噂など。あらゆる噂が流れに流れ、リゾートアイランドから人々は失せ、衰退した。
人々のいなくなった島は廃れ、豪華絢爛な施設の数々は見る影も無く朽ち果てていた。

「このように、人々の欲望によって作られた元リゾートアイランドで生まれた悪意の塊が、ゆうたろうさんなのです」
「そ、そうだったんですか。僕が悪意の塊だったなんてびっくりです」
島民代表の話が終わると、ゆうたろうは呆然とした様子で口をあんぐりと開けていた。ゆうたろうは、あっ、と思い出したように言い出した。
「忘れる所でした。今回のお礼の品を差し上げます。まだ持っていないものと高そうなもの。どちらかをお選びください」

ゆうたろうは、実体が無いはずなのに何故即座に家具などを差し出せるのか。それは一体どこから調達してきたのか。持っていないものが何故わかるのか。
それは、島民代表すら分からない。



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